2012年4月15日日曜日

医学書院/週刊医学界新聞(第2795号 2008年09月01日)




第2795号 2008年9月1日


第5回日本うつ病学会開催


 第5回日本うつ病学会が神庭重信会長(九大)のもと,7月25-26日の2日間にわたりアクロス福岡(福岡市)において開催された。今回のメインテーマは「現代のうつ病――病理の多様性,予防・治療の多様性」とされ,本学会設立の目的のひとつでもある多職種連携を基盤とするうつ病治療のより一層の進展を目指し,医師・コメディカルなどさまざまな立場からの新しい病態に関する討論,職場復帰プログラムに関するワークショップ,また臨床の達人として多くの精神科医から信奉を集める神田橋條治氏(伊敷病院)による招待講演など多彩な演題が企画された。


 わが国におけるうつ病患者の総数は90万人を超え,この20年間で10倍に増加している。患者数の増加に加え,社会構造など環境因子の変化に伴い,うつ病の病像が複雑・多様化し,"これこそがうつ病である"というプロトタイプが持ちづらくなっている現在,診療現場が混乱を来たしているというのが実情ではないか。


"応答は、多くの場合、前駆体として識別されます。"

 本紙ではこの状況からのブレイクスルーを期して企画されたシンポジウム「うつ病の多様性への治療戦略」のもようを報告する。

うつ病の多様性への治療戦略

 はじめに内海健氏(帝京大)から,現在までの病態・治療法の変遷について整理が行われた。氏はうつ病治療が難しくなっている要因について「かつて患者の大多数を占めたメランコリー性格や執着気質に代表される"中間形質"というマーカーが見えなくなっている」「症状がかつてほど鮮明でない」「双極性がびまん性に出現する」との3点を指摘。また操作的診断の影響もあり,症状を羅列的に並べることに終始しがちであるが,まずは器質性疾患や統合失調症などその他の疾患との鑑別をしっかりと行ったうえで,"本物のうつ病"を見逃さないための診断を進める必要性を強く説いた。


外観強迫観念

診断が難しい症例の増加

 内海氏も提示したが,現代型のうつ病(気分障害)は「スペクトラム」概念に象徴されるように非常に多様化しており,DSMにおけるⅡ軸診断との関連も含めて,その診断基準にはコントラバーシャルな側面も多い。この問題について津田均氏(名大)は「Bipolar Spectrumの多面的理解」,坂元薫氏(東女医大)は「非定型うつ病はうつ病か?」と題し,自説を口演した。両氏ともに診断基準にとらわれ過ぎず,症状(現象)をありのままに捉え,丁寧に診断・治療を行う重要性を強調。そしてこれらの症候群に対してパーソナリティ障害との誤った診断を安易に下してしまうことに対する警鐘を鳴らした。

現代型うつ病の類型

 精神病理学の分野において多くの期待を集めながら3年前に33歳の若さで夭逝した樽味伸氏が提唱した「ディスチミア親和型うつ病」。活力不足型とも形容され,「中間形質を持たず,輪郭のはっきりしない不全感や心的倦怠を呈し,しばしば他罰的である」という新しいうつ病類型のひとつといえるこの診断仮説について,樽味氏の近しい同僚であった松尾信一郎氏(若久病院)が解説し,しばしば治療が遷延化するこの一群に対するアプローチについて考察を行った。


色覚異常の人口

 前述のような診断が難しい患者が増加する一方で,精神科受診に対するスティグマの減少が一因となり,軽症うつ病患者の受診も急増している。必ずしも治療が容易でないこの軽症群の治療戦略について,松浪克文氏(虎の門病院)は,働く自信を失った勤労者を例に考察を行った。このなかで氏は,生活リズムなど職業人としての個人の文化様式を数年がかりで患者自身のなかに再構築することが最終の治療目標となると述べた。

治療法の拡大も病態多様化の一因に

 医療の進歩に伴い,治療の選択肢も広がっている。黒木俊秀氏(肥前精神医療センター)は三環系,SSRIや非定型抗精神病薬の併用をも含めた薬物治療やECTなど"身体的治療法の多様化と拡大"も病態の多様化の一因になっていると指摘した。認知行動療法など心理療法も含めた新旧の治療法を適切に組み合わせ,治療戦略を構築することがいま,求められている。


 このシンポジウムの終演にあたり,野村総一郎氏(防衛医大)は「社会に対するうつ病治療の啓発活動はセカンドステージに入り,今後は病態の多様性への理解を求める必要がある。そのためには各病態に対する適切な治療の提供が求められており,いまはその夜明けにいる」と現状を総括した。

 また講演のなかでは,複数の演者から「治療者自身が患者に対する陰性感情といかに闘うか」「治療者が燃え尽きないという重要性」について指摘がなされた。治療が長期化傾向にある診療現場のスタッフにとって重要な示唆であり,学会内外のさまざまな場における医療者間の情報の共有,連携がその一助となるであろう。

 なお,第6回日本うつ病学会は2009年7月31日から2日間,東大名誉教授・久保木富房会長のもと,東京都内で開催の予定。



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