水質指標、その単位にまつわるお話編:用語「貝」説!
製作:前橋工科大学大学院 阿部 泰宜
第八回は、水質指標にかかわる、「単位」に関して取り上げていきます。
貝は全く関係ないかといえば、全くそんなことはない水質に関連する単位を解説していきます。
というか、水質に関連する単位のほとんどがmg/Lです。
BOD,COD,SS,DOもmg/L
窒素、リンもmg/Lです。
その他、環境基準に記載されている成分、そのほとんどがmg/Lという単位で表されています。
中にはppmという単位を使っているものもありますが、ppmについてはこちらをご覧ください。
ppmとmg/Lの違いについて、素晴らしく分かりやすい解説をしてくれています。
というわけで、水質に関する単位のご紹介は9割方終了です。
まぁ、何もしないわけにはいかないので、
私が、水質に関する基準の中から見つけたmg/L以外の変わった単位についてご紹介していきたいと思います。
というか、なぜか単位ではないもので溢れかえっていますが。
水質指標、その単位にまつわるお話!の解説項目
大腸菌群数
まず、ご紹介するのは大腸菌群数の単位。
大腸菌群数の単位はMPN/100mLという謎の単位を使っています。
mLは容積(水量)の単位ですが、
MPNって何でしょう…?
というか、mLに関しても、
なぜ、あと10倍して、1Lにしてくれなかったのかも気になります。
まずは、大腸菌の検出方法からご説明していこうと思います。
工場排水試験方法や下水試験方法において、
大腸菌群数を測定したい水を培養皿に取り、水中の大腸菌を培養し、そのコロニー(集落)数を数えることで測定します。
これを平板培地法といいます。
MPNとは、「Most Probable Number」の略であり、最確数という意味です。
最確数とは、培養後のコロニーの数を確率として統計学的に表したもののことで、
具体的にいえば、水道1級を含む公共用水域の河川AA類型の大腸菌群数は50MPN/100mL以下と定められていますが、
この単位は、試験水中100mLを培養皿で培養した場合、大腸菌のコロニーが50個出来るという意味です。
MPN=コロニー数(個)」と考えても良いと思います。
しかし、培養後のコロニー数は、分析での誤差を軽減する観点から、
30〜300個程度になるよう検水の量または希釈率を調整することになっているため、
「平板培地法」では分析に使用する検水量は、1mL程度が限界となっています。
つまり、河川AA類型での大腸菌群数は50MPN/100mLであるため、
この方法を用いた場合、河川AA類型のような低濃度の大腸菌群数の試験水を分析する際には、
50個/100mL=0.5個/mLとなり、
コロニー数0.5個を数えるという概念になってしまうため、うまくいきません。
フクロウは大きな目を持っていない理由
ここで、この水を10個の培養皿に1mLずつ取って培養したとします。
その場合、5個の培養皿には陽性(コロニーの検出)の反応出て、
他の5個の培養皿には陰性(コロニーが検出されない)の反応が出るという確率が一番高くなります。
それについで陽性6:陰性4、陽性4:陰性6の割合で検出される確率が同率で発生し、
さらに7:3、3:7の割合、8:2、2:8の割合で検出される確率が続いていきます。
この確率分布は、
「水中に大腸菌が一様に分散する」「分取された菌は陽性反応する」
という条件下において統計学的に処理できます。
逆に言えば、大腸菌群数が未知である水を分析した場合、
陽性5:陰性5で出た場合には、0.5個/mLである確率が最も高くなります。
勿論、厳密に言えば、0.5を中 心とした値に真の値があります。
このように大腸菌群数をx、培養皿の数をn、うちコロニーが検出されたものをpとして考え、
統計学的に処理し、nとpから最も確からしいxの値がいくつかを考えるのが最確数法の手法です。
培養皿の数nが大きいほど正確ですが、試験が煩雑になるため環境分析ではn=5を用い、
また希釈倍率を変えた4段階の検水で判定しています。
そもそも、大腸菌群とは、大腸菌及び大腸菌と極めてよく似た性質を持った菌の総称です。
大腸菌群数は環境衛生管理上の汚染指標菌として飲料水適否判定のために用いられています。
しかし、大腸菌自体は無害な菌で、人の腸管内に生息しているのがその大きな証拠です。
環境評価の中では、大腸菌数は糞便による汚染の指標となり、
また、消化器系伝染病は常に大腸菌と一緒に存在していることから、
赤痢菌、チフス菌、サルモネラ菌などの消化器系病原菌により汚染されている危険があるということを示します。
このように大腸菌が病原菌の指標として用いられるのは、それに関わる莫大な情報量が蓄積されていること、
大腸菌が消化器系伝染病より抵抗力が強く、検出 が容易であり、そのダミーとして適していることなどが挙げられます。
で、気になるのはなぜ100mL止まりなのか。
あと10倍してくれれば「MPN/L」というすっきりした単位になっていたはずです。
これにはきっと統計学的な確率の問題が絡んでくるのだと思います。
下手に10倍してしまうと、MPNで統計学的に語っていたものに誤差が生じてしまうのではないかと。
信頼性が失われてしまうとか。
そう思うわけですよ。
…いや、まぁ、よく知らないですけどね。
たぶんそんなかんじ。
ご存知の方がいらっしゃいましたら是非御享受ください。
お願いします。
<追筆>
このことを下水処理の権威にお伺いしたところ、
大腸菌群数は食品関係の指標からきているらしく、
コップ一杯分の水に含まれる大腸菌の数を表しているのではないか、
とのことでした。
おー、なるほど、納得です。
かなり信憑性が高いです。
ご回答ありがとうございました。
色度
つづいては、色度と濁度の御紹介です。
「水道水質基準」の「水道水が有すべき性状に関連する項目」を眺めていたら、
こんな項目がありました。
色度:5度以下
濁度:2度以下
確かに、いくら飲める水道水だからといっても色や濁りがあっては不快感を感じてしまいます。
このような項目はあってしかるべきなのですが、
色度5度ってどんな色?
濁度2度ってどのくらいの濁り具合?
となるわけですよ。
そもそもどうやって計測しているのかも気になりますし、その基準も分かりません。
初期の人々がどのように生き延びた
まず、色度とは、
水中に含まれる溶解性物質やコロイド性物質が持つ黄褐色の度合いを指します。
その色彩成分としては、水に含まれる鉄などの金属やフミン質などがあり、
それらにより汚染されている程度を示しています。
フミン質とはなんぞや?という疑問についてはこちらのページが大変参考になるかと思います。
その測定基準となるのは、私たちが良く知る光の三原色RGBを用いたものではありません。
勿論、そのような表し方をすることもできますが、
水の色に関していえば、着色の原因となる成分は金属やフミン質であるため、ほぼ黄褐色となります。
問題はその濃さであるため、すべての色光を用いて、小難しく表記する必要性はないの� ��す。
つまり、光の三原色RGBを用いた色表記は全ての色について用いることが可能ですが、
ここでいう、水の色度は、黄褐色の度合いについてのみを対象とした表記法なのです。
ではその基準となるのは何なのかといいますと、
「精製水1L中に白金イオン1mg及びコバルトイオン0.5mgを含むときの呈色に相当するもの」を「色度:1度」としています。
この色度標準液の色調は、フミン質の色調に類似したものであるそうです。
まぁとにかくこれを基準にしました。
つまり、これより2倍濃ければ色度2度、3倍なら色度3度です。
……。
そんなことは目視で分かるはずがないので、測定には吸光光度法という方法を用います。
これは簡単に言えば、機械を使って溶液にある一定の波長の光を当てて、透過した光の強さを電気的に測定するものです。
その結果を基準液と比較することによって対象の吸光度、つまり色度を導き出すことが出来ます。
ちなみに水質基準値となっている色度5度とは、肉眼ではほとんど無色と認められる限界です。
それら色度の比較はコチラやコチラをご覧ください。
そして、この色度は、水の見てくれだけの問題かといえばそうではありません。
水中に溶け出している金属類は身体に害を及ぼす可能性がありますし、
フミン質自体は人体に対して特に有害ではありませんが、
遊離塩素*1と反応してトリハロ� ��タン*2等を生じるため、生成したトリハロメタン等は人体に有害となります。
*1遊離塩素
溶存ガス(Cl2)、次亜塩素酸 (HOCl)、および次亜塩素酸イオン (OCl-)
として水中に存在する残留塩素の濃度。
*2トリハロメタン:
有機ハロゲン化合物の一種で、
クロロホルム、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン、ブロモホルムの4種類の総称。
発がん物質が指摘されている。
濁度
色度と似たような測定項目に濁度というものがあります。
濁度とは、呼んで字の如く水の濁り具合を数値で表したものです。
濁りは、沈泥、粘土、藻、その他のプランクトン、有機物などの細かい非溶解性粒子を含む浮遊物によって発生し、
この濁度の基準は、
「精製水1Lの中に1mgのカオリン*3またはホルマジンを含む時の濁り」を「濁度1度」としています。
しかし、カオリンを用いた場合とホルマジンを用いた場合とでは、同じ濁度1度にはなりません。
「度(カオリン)≒0.7×度(ホルマジン)」という関係になります。
度(カオリン)はmg/Lで表記されることがあり、「度(カオリン)=mg/L」です。
度(ホルマジン)もFTU(Forumajin Turbidity Unit)という単位を用いることがあります。
また、NTU(Nephelometric Turbidity Unit)という単位を使うことがあります。
これもまた、「度(カオリン)≒0.7×NTU」として計算することが可能です。
つまり、「NTU = FTU[度(ホルマジン)])となります。
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測定の方法も様々あり、色度と同じように吸光光度法から求めたり、
NTUを求める場合には、ホルマジン標準液を利用し、投射光と直角方向へ散乱された光量を検出する「散乱光濁度」を用います。
その濁度のサンプルは、コチラやコチラやコチラ。
濁度は、人体への影響を考慮した指標となるほか、
水道において浄水処理に大きな影響を与えるため、浄水管理上の指標となり、
給水栓中の濁りは、給・配水施設や管の異常を示す重要な指標となります。
そのため、濁度測定を必要とする場所は、上下水道だけでなく、河川・湖沼海域など広い範囲にわたっています。
湖沼での濁度が高くなる要因としては、
無機物による濁りとプランクトンなどの有機物による濁りが考えられます。
ちなみに、濁度と透視度では全く逆の立場における指標であり、
透視度と透明度は、本質的には同じような指標です。
どれも水の濁り・清澄度を示す指標ですが、各々の測定方法が異なるため、その単位は異なります。
透視度とは、底の平らな直径3cm、高さ30cm〜100cm程度の下口付きのガラス管に試料水を入れ、
その底においた標式板の二重十字が明らかに識別できる限界の水の厚さを1cmを1度として表したものです。
これは個人誤差もあり、ガラス管にあたる光の具合で値が異なることもありますが、
特別な器具を要さないことがこの測定法の特徴です。
透明度とは、透明度板あるいはセッキー板と呼ばれる径30cmの白色板を水中に沈め、
ちょうどそれが周囲と区別できなくなる深度をmで表したものです。
主に湖沼や海洋等の水深の大きい水域で測定されます。
*3カオリン:
主成分がシリカ(二酸化珪素SiO2)、アルミナ(Al203)、水(H2O)で形成される粘土のこと。
中国江西省の高嶺(高綾)が代表的な採掘地であることから名づけられた。
臭気強度
水道水質基準を保管する項目の(1)快適水質項目には、
臭気強度(TON)3以下とあります。
臭気強度(TON:Threshold Odor Numberの略)は、臭いの強さを表したもので、
臭いの強さを0〜5の6段階で評価する方法です。
具体的にいえば、「匂い」でなく「臭い」なので、臭さについての指標です。
以下に示すのが6段階臭気強度の表示法です。
臭気強度 | 判定尺度 |
---|---|
0 | 無臭 |
1 | やっと感知できるにおい(検知閾値濃度) |
2 | 何のにおいかわかる弱いにおい(識別閾値濃度) |
3 | 楽に感知できるにおい |
4 | 強いにおい |
5 | 強烈なにおい |
臭いをもつ物質は約40万種あるとされています。
水に関わる臭気では、排水や下水の混入、プランクトンや細菌の繁殖や死滅、地質、塩素処理等に起因します。
また、臭いを発する物質には有機物が多いのですが、硫化水素やアンモニアのような無機物によることもあり、
それらの中には低濃度でも強い臭気を発するものもあります。
ここでいう「臭さ」の基準ですが、
「〜の臭気成分が〜以上だから臭気強度〜。」という形で決められているわけではありません。
人間は多数の物質が含まれた複合臭を感じ、「臭い・臭くない」の判別を行なうため、化学的に測定して分類するのは困難です。
さらには、嗅覚には年齢・性別・健康状態・喫煙習慣の有無などによる個人差があり、
温度や湿度などの外的な要素にも左右されます。
そこで、臭覚の個人差をなくすため、同一試料について複数人で試験したり、
臭気判定士などの専門家が「臭気の度合い」を判定しています。
この「臭気強度」と似た指標には「臭気濃度」や「臭気指数」というものがあります。
「臭気濃度」とは、ある臭気を「無臭の清浄な空気で希釈したとき、ちょうど無臭に至るまでに要した希釈倍数」のことです。
つまり、臭気濃度1000というのは、無臭の空気で1000倍に希釈したときにその臭いを感じなくなる濃度のことです。
ここで、人間の感覚(知覚強度)というのは、通常10倍あれば2倍、100倍あれば3倍という、対数関数的な増減をしています。
そこで、人間の感覚に似せた「臭気指数」という表示方法が「臭気濃度」に代わって用いられました。
「臭気濃度」と「臭気指数」の関係は以下の通りとなっています。
臭気指数=10×log(臭気濃度)
それらの数値をより直感的に数値の意味を理解できるようにしたものが「臭気強度」です。
以下に臭気関連指標の関係表を記載します。
臭気強度 | 臭気指数 | 臭気濃度 |
---|---|---|
2.5 | 10〜15 | 10〜31 |
3.0 | 12〜18 | 16〜63 |
3.5 | 14〜21 | 25〜126 |
臭気強度が3、臭気指数が15を超えると苦情が出やすいとされています。
このような臭気に関する指標は、
多様な複合臭に対応できるため都市・生活型悪臭への苦情対策に有効ですが、
臭いの原因物質を特定できないなどというデメリットもあります。
以上、足早に御説明してきました。
結局、単位にどれほど関われたといえば全くそんなことはないことに気づくのですが、
まぁ、コレはコレで勉強になったのでよし、です。
一生懸命に単位について調べてくれている、マツリョーやミナミ、そしてスガワラさんとは
全く趣の異なったものになりましたが、それぞれがどこかで何かしらを使えればいいんじゃないかな?
ってことで、私は彼らの努力の結晶を利用させていただきます。
私のも使えるときがあれば使ってやってください。
少なくとも、
米パイント(液量):1USfl.pt.=473.2cc
や
露里:ロシアの長さの単位。1露里≒1067m
なんかよりは使う機会多いんじゃないかな…?
そんなわけで、水質の単位にまつわるお話編でした。
それでは、また。
参考文献
水環境工学 松本順一郎編集 朝倉書店
環境と微生物 都留信也編著 共立出版
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